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津地方裁判所四日市支部 昭和45年(タ)14号 判決

主文

原告と被告を離婚する。

原被告間の長女、松本友栄(昭和四三年二月一〇日生)に対する親権者を原告と定める。

被告は原告に対し金一〇〇万円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として主文同旨の判決を求め、請求の原因として

一、原告は被告と昭和四二年三月二〇日事実上の婚姻をなし、同月三〇日届出をした。

原被告間に昭和四三年二月一〇日長女友栄が生れた。

二、被告は自動車学校の管理者職員等と詐つて教習生を誘い出し姦淫しようと企て、昭和四四年一〇月四日四日市市内においてA子(当時二二才)に対し暴行を加えその反抗を抑圧して強姦し、更に同年一一月二五日四日市市内においてB子(当時一八才)に対し、同女を強姦しようとして旅館に連行し誘拐しようとしたが、警察官に発見されその目的を遂げることができなかつた。

三、被告は右強姦、猥褻誘拐未遂の罪により、津地方裁判所四日市支部において昭和四五年四月二四日懲役三年に処せられ、その頃右判決が確定したもので目下福井刑務所に服役中である。

被告はその他にも同様の手段で姦淫を企て、昭和四四年四月二二日頃C子(一八才)に対し、又同年四月二八日頃D子(一八才)に対し、更に又同年一〇月末頃E子(一八才)に対し、いずれも四日市市内において同女等に暴行を加えその反抗を抑圧して右三名を強姦したものである。

四、以上の事実は、被告に民法第七七〇条第一項第一号の不貞行為の行為があつた場合に該当するものであるから、原告は被告と離婚を求めるものである。

しかして原被告間の前記長女友栄は原告を慕つており、原告は保育園の保母として勤務しており、子の将来を考えれば、原告にその親権を行使させるのが最も当を得たものと思料する。

よつてその親権者として原告を指定することを求める。

五、本件離婚は被告の不貞な行為に基づくもので、原告はこれにより言い知れない甚大なる苦痛を受けたから慰藉料として金一〇〇万円を請求するものである。

六、離婚調停は原告が津家庭裁判所四日市支部に申立たのであるが、被告が離婚に同意しなかつたので昭和四五年一〇月三〇日不調となつた。

と述べた。

被告訴訟代理人は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた答弁書には「原告の請求棄却」の判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項並びに第三項中原告主張の如き刑に処せられ服役中である事実は認める。併し右の事実は民法第七七〇条に所謂不貞行為をしたものではない。

同条に所謂不貞行為は他の女性と一回だけ仮に情交があつたとしてもそれを以て直ちに離婚に値する不貞行為とは言い得ないのである。

被告は自己の罪を悔い心から改心して上訴をやめて服罪しているのである。

而して被告には離婚の意思はなく、又原告本人も離婚しない旨を被告に誓約している処、原告は周囲から離婚を強いられているのである。

との記載がある。

立証(省略)

理由

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第二ないし第二〇号証、証人松尾春雄の証言及び原告(第一、二回)、被告本人尋問の結果によれば、原被告は昭和四二年三月二〇日結婚式を挙げ、同月三〇日婚姻届をなし菰野町大字川北六〇六番地に居住し、被告は桑名商工会議所に勤務し、約三万円程度の月収を、原告は菰野保育園の保母として約二万五、〇〇〇円程度の月収を得ていたこと、原被告間に原告主張の日時長女友栄が出生したこと

然るところ被告は友人の斎藤誠一より自動車学校の職員を装えば、未婚の女子教習生を強姦しやすい旨聞かされその挙に出ることを共謀の上、先づ同年三月頃F子(当時二一才)に対して両名してホテルまで連れ込んだが同女の抵抗にあつて失敗したにも拘わらず、翌四月頃、被告より斎藤に連絡の上、D子(当時一八才)に対し同様の手段を以て輪姦を遂げ、更に同年一〇月頃A子(当時二二才)、同月末頃E子(当時一八才)に対して同様それぞれ輪姦を遂げ、次いで同年一一月頃B子(当時一八才)に対し同様手段で誘い出したが同女が警察に連絡したため、逮捕され、右A子に対する強姦、右B子に対する猥褻誘拐未遂の罪により津地方裁判所四日市支部において懲役三年の刑に処せられ、右判決が確定し、同年五月頃より福井刑務所に服役中であること、その他にも被告単独にて四月頃、同様の手段にてC子を強姦しようとしたことがあること

これらは何れも被告と訴外斎藤が自動車教習所においてあらかじめ教習生カードにより目星をつけた女性に対し、同所の職員等と詐つて、便宜を計らつてやるなどと言葉巧に誘い出し、ホテル等に連れ込んだうえ、輪姦したものであつて、まことに計画的なものであり、而も被害者の泣き寝入りをよいことに遂に警察に逮捕されるまで、一年に亘り数回の犯行を重ねたこと、被告は当初は斎藤より誘われたのではあるが、爾後はむしろより積極的でさえあつたことを認めることができる。一方前掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告は右事実につき留置場ないし拘置所に面会に行つた節も被告よりありのまま打明けられず(被告は、右B子の件に関して警察の取調に対しても当初斎藤より誘われた旨虚偽の供述をし、一二月三日になつてこれを飜している。)前記斎藤について行つて見張りをしていただけだから、執行猶予になると言われており、又義兄松尾春雄も取調官より聞いた前記真相は原告に話さなかつたので、被告が前記実刑判決を受けたときも原告はむしろ裁判所の冷酷な処断を恨めしく思い、尚被告の言を信じて子供と共に実家にて被告の出所を待つつもりであつたのであり、従つて情愛のこもつた手紙を獄中の被告宛に屡々差出していたが、同年六月二三日別れ度い旨の書翰を最後として音信を断つたこと、その頃義兄松尾春雄より事の真相を打明けられたことを併せ考えると、原告としても被告の言と違つた余りにも非道の所為に周囲の非難勧告にもかかわらず持ちつづけて来た、被告への信頼と愛情が一挙に喪失し、遂に自己の意思により離婚を決意するに至つたものと認めることができる。

被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用しないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

してみれば、原告は被告と結婚以来共稼ぎにより営々として家庭を築いてきたところ、突然被告の逮捕受刑となつたが、尚被告の言を信頼してその出所を子供と共に待つべく、周囲よりの非難にも耐えて来たところ、事の真相如上の如くであつてみれば、それを知らされた原告としては漸くにして持ちつづけてきた被告への信頼と愛情が一挙にして崩壊し、離婚の決意に立つたとしても全く無理からぬものがある。

事〓に至つたのは全く妻の愛情をふみにじつてあくなき破廉恥な行為を続け、罪発覚後も尚これを原告に秘しつづけた被告の所為にあり、右は正に民法第七七〇条第一項第一号の不貞の行為そのものに該当するものであるところ、被告の右所為自体が原告に加えた精神的苦痛の大なるはもとより、前掲各証拠により認められる昭和四五年秋頃、離婚の調停を津家庭裁判所四日市支部に申立て、裁判官、調停委員共福井刑務所に赴いたが被告が離婚に同意しなかつたので不調に終つたこと、並びに、被告本人尋問の結果に徴すると、被告は今尚自己の行為の重さの自覚に欠け、とりわけ妻に与えた精神的苦痛に思いを致すことなく、子供の将来についてもまことに近視眼、自己中心的な考えに終始していることが窺われることをも併せ考え、而も本件訴訟が所謂管轄の点をめぐつて提訴以来一年有余も実質審理に入り得ず、その間長女の幼稚園入園を目前に控え原告の心労の程をも察すると、原告の精神的損害に対する慰藉料としては金一〇〇万円を相当とする。

尚原被告間の長女友栄については、本件訴訟原因、母親たる原告の生活能力等諸般の事情に鑑み、その親権者を原告と定めるのを相当とする。

よつて原告の請求は正当としてすべてこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

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